オオ、ジュニア!

~ありふれた少女の非凡な一日~

ゆるやかな変身願望

 少し前にビジネスマナー講習とかいうのを受けた。その中で講師の方が「女性の化粧はマナーです、すっぴんなんて論外!」なんて仰っていて、とても驚いた記憶がある。毎朝の起床がクライマックスの僕なので、髭を剃るだけで事足りる男で本当に良かった(加えて言うなら、未だ髭を剃ることすら忘れがちでよくマスクをしている)。

 しかし、仕事中に相手の顔をそんなに見るのだろうか。いや、見るには見るのだろうけれど、すっぴんかどうかなんて僕なら気付ける気がしない。たった一度だけ、友人の女の子が普段と違ってセクシーに見えて、口紅を変えてたことに気付いたことがある(余談だけれど、それは彼女のお気に入りのモノだったそうだ)。でもそれっきりだ。デキるビジネスマンだとすぐ気が付くのだろうか。わからない。

 ところで、女の子はお気に入りのリップを塗ったら変身できるのだろうか。確かあの日はいつもと変わらない平日だったはずだ。それなのに、何故。ただの気紛れだったのだろうか。それともあの日、彼女に何かあったのだろうか。今になって思い返すとなんだかドキドキする。普段日になんでお気に入りの口紅を付けてきたのか聞きそびれてしまったことを少し後悔する。

 

  ふと「偽名のある人生を送ってみたい」と思う。なるべく普通で意味なんて無いありきたりなもうひとつの名前。偽名というより通名の方がより正しいかもしれない。その名前を何十年も使って生きて、みんな僕の本当の名前を知らない。とてもミステリアスで痺れてしまう。

 けれどこれを達成させるには、かなり波瀾万丈な人生を歩まねばなるまい。出来れば中学卒業を機に故郷を捨て自立。最終的な職業は必然的に自営業。サラリーマン・公務員とか有り得ない(採用の際に名前がバレるから)。中卒で自営業……これだけでかなりロックで破天荒だ。無意味に憧れてしまう。そして、いつか結婚する時に、婚姻届を見た奥さんだけが僕の本当の名前を知る。婚姻届を見た奥さんにはとてもショッキングかもしれないけれど、なんだかこれは凄いロマンチックだ!ええい!今からでも遅くない!いざ職を捨て、お国を捨て、ロマン溢れる偽名の世界へ飛び込もう!

 

 結論。万人が当たり前に結婚出来ると、まだ僕は思い込んでいるみたいだ。